IT投資額の目安

世間一般的なIT投資額の目安は?

「IT予算としてどの程度かけるのが妥当なのでしょうか」という問合せをよくお聞きします。
参考になる指標として、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)より『企業IT動向調査2016』が発表されました。

調査結果によると、「売上高に対するIT予算比率」は、2014年度が1.11%、2015年度が1.21%で微増傾向にあります。
また、業界により差が大きいことも分かっています。金融業界のIT予算比率が7.82%と高く、逆に建設・土木の比率は0.49%でした。

一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)のサイトはこちらをご覧ください。
※『企業IT動向調査』は毎年発表されておりますが、「売上高に対するIT予算比率」についての無償で入手可能な資料は、2016年度発表資料が最新のようです(2019/8/7現在)。

また、最新情報としては、日本経済新聞(2021/7/13朝刊、『名ばかりCIO、場当たりDX』)によると、下記の記載がありました。

米ガートナーによると、日本企業の売上高に対するIT予算の割合は2020年に推定1.0%、北米の3.3%、欧州・中東の2.6%に水をあけられている。

このように、日本企業のIT予算が外国企業のIT予算に比べて低いことが明らかになっています。
企業の戦略によってIT投資比率には自ずと差が発生しますが、このようなデータも参考にしてみていただけると幸いです。

IT投資額の目安は、各々の企業のIT戦略によって異なります

企業のIT戦略によってIT投資比率には自ずと差が発生します。

IT投資に関心を持たない経営者、経営層の企業の場合は、当然、IT投資比率は下がります。
「IT化したら入力作業がたいへんになるので、Excel管理のままがよい」と考える企業も、実際にお見かけいたします。
そのような企業においては、IT投資は、インターネット回線、PC、通信端末など、主にハードウェアのみになりますので、IT投資額の目安はかなり低くなると想定されます。

逆にIT戦略に強い関心を持つ経営者は、「入力作業の手間、入力作業の負荷」を上回る生産性向上を実現するITへの投資を積極的に行います。
上記ハードウェアに加えて、生産性を向上させるソフトウェア(クラウドサービス)の購入が必須ですので、IT投資額の目安は上がると想定されます。

IT投資額の目安のざっくりした計算方法

例えば、年商10億円の企業では、年商の1%は1,000万円になります。ITツール、特に基幹システムの利用年数は概ね5年で計算しますので、1,000万円×5年=5,000万円程度のIT投資が目安、ということになります。
これは単なる目安であって、企業が置かれている環境によって、5,000万円〜1.5億円程度の差があるといえます。

IT投資額を精緻化するためには

IT投資額を精緻化するためには、RFP(Request For Proposal:提案依頼書)を策定して、自社のITニーズをまとめ、自社のITニーズによりフィットした提案をしてくれるITベンダー(システム会社)を探し出して、導入費用を見積もっていくことが欠かせません。

【参考記事】基幹系業務システム選び:相見積をとることが重要
【参考記事】RFPを作成して業務を見える化する

自社のITニーズの規模によって、RFP策定・システム選定にかける時間は、数ヶ月〜1年程度になります。
ちなみに、ITプラン株式会社のITコンサルティングサービスでは、6ヶ月〜1年でシステム選定を行い、IT投資額を精緻化していきます。

IT投資額の回収(コストパフォーマンスの算定):目測で数値化する

「IT化を行うことによって、どれほどの金銭的な価値を生み出すか」
「IT化でどれほどの生産性向上を生み出すか」

でお悩みの経営者もいらっしゃると思います。

IT化の成果の測定は非常に難しいですが、成果を予測・数値化するうえで、ある程度「目測」で数値化を行います。
例えば、「このIT化によって、業務担当者を1人プロフィットセンター(利益を生み出す部門のこと)に異動できるから、年間500万円の人件費を有効活用できる」
または、「このIT化で歩留まり率が改善される、または原価率が○%改善されるため、年間○○万円は効果がある」といった目測です。
基幹系業務システムの更改においては、「もし現在IT化している業務をすべて手作業に戻した場合、年間○○万円の人件費が増加する」といった目測も必要かもしれません。

こういった目測を立てるのは、経営者、経営層の方の仕事となります。まさに「IT課題は経営課題」であります。

IT投資額が大きくなればなるほど、会社の運命を左右しますので、「目測」を発展させて、具体的証拠に基づく、より精緻な「IT投資計画」の策定が必要になってきます。

 

パッケージソフトウェアのカスタマイズ費用の妥当性をどのように判断するか

IT投資額の目安を考える上で、大変重要なポイントの一つは、パッケージソフトウェアのカスタマイズ費用です。

パッケージソフトウェアを提供するITベンダーの多くは、カスタマイズはしてほしくありません。
カスタマイズを増やすことで導入費用を上げて稼いでいるITベンダーも一部にはありますが、私のSE経験からすると、現場のSEの立場としては、極力カスタマイズはしてほしくありません。

パッケージソフトウェアのカスタマイズ費用は、基幹システム導入費用、すなわちIT投資額の大きな割合を占める場合があります。IT投資において、カスタマイズ費用の妥当性をどう判断するかが重要です。

カスタマイズの目安は「自社の利益の源泉となるカスタマイズ」であるかどうか

元々のパッケージ導入費用が当該IT投資予算を大幅に下回った(予算の5割以下)場合は、カスタマイズ費用を多くかけることは妥当と考えます。カスタマイズの内容にもよりますので、「すべて妥当である」とは申しませんが、元々のパッケージをいわば「半製品」と見なす考え方であり、私はこれはこれで妥当なIT投資の判断なのではないかと考えます。

逆に、元々のパッケージ費用導入が当該IT投資予算の7〜8割を超えている場合は、予算に十分見合ったパッケージを選んでいることから、これ以上のカスタマイズをするか否かは、注意が必要と考えます。

その場合は、カスタマイズを行うことで自社に利益がリターンされるかどうかを、経営層が納得してから判断する必要があります。
RFP(Request For Proposal:提案依頼書)を策定し、業務の見える化を行った上で、カスタマイズ対象機能が「自社の利益の源泉となる業務」であれば、多額の費用がかかってもカスタマイズを許容することになります。

大企業/中小企業のIT投資判断ポイントの大きな違い:売上・仕入「依存度」

中小企業のIT投資の現場で、大企業と大きく異なる環境の1つが、中小企業が「数社の上お得意先の下請業務が、全体売上の大部分を占めている」点です。上お得意先に対して、きめ細かい業務対応を行うために、現場の業務が複雑化しているケースが多いです。
これを無視して、一般論の「業務をシステムに合わせる」を強いることは困難です。

とはいえ、聖域を作って、何の議論も無しに「システムを業務に合わせる」こともあり得ません。

上お得意先に相談すると、簡単に業務を変えてくれることも実際にあります。また、上お得意先も下請企業も、一緒に成長していく必要があります。「元請企業だけが栄えて下請企業が損をする」、またはその逆も、これからの時代には通用しません。
大企業=元請企業、中小企業=下請企業の関係でいえば、大企業=元請企業のほうがIT化が遅れている事例は多くあります。少なくとも私が関わって基幹システムが更改になった暁には、中小企業は、大企業よりIT化が進みます。元請企業をIT化から「置いていく」ことも、お互いの成長にとって好ましくありません。

カスタマイズ費用を含むIT投資の判断は、まさに重要な「経営判断」であります。